撮 影 閑 話

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コツブヒメヒガサヒトヨタケ
神奈川県・高麗山

「きのこ」は言わば菌類の『花』である。

真の世界では『花』を作品のモチーフに選ぶ人は多い。各自それぞれにシーンを切り取り、フィルム上に焼き付ける。それはそれなりにいろんな苦労があるのだろうが、誰の目にも美しく楽しいひと時のように見える。

れに比べると「きのこ」の撮影はずいぶん様子が違う。


でも薄暗い森に分け入り、ひたすら地面や木の根元を探し回る。夏ともなると集団で襲ってくる蚊やアブやヒルと戦い、マムシやスズメバチに出くわすことも多く、クマに見つかってしまう危険性もあって、文字通り命がけである。

モの巣が顔面にかかることもたびたび・・・もっともこれは、自分からかかっていったわけだから、クモの方がいい迷惑だと憤慨していることは間違いない。

して、地面に貼り付くようにしてシャッターを切る。通りがかりのハイカーが心配して声をかけてくれたことも、一度や二度ではない。他人の目からすれば、これは奇人以外の何者でもない。
ぜ、こうまでして「きのこ」を撮るのか。

は当の本人にも良く分からない。他の何を撮影しても、これほどの手応えを感じることはない。「野鳥」や「虫」などいろんなネイチャーフォトも撮ったが、ロクな作品がない。

鳥などは、森を歩いているとすぐ目の前までやって来ることがある。が、いつも見とれてしまってカメラを向けたときには、どこかへ消えてしまっている。

たある時は、テントウムシをいっぱい捕まえて、タンポポから飛び立つ瞬間を撮ろうと、フィルム1本を使い切った。が、1枚もいい写真がなく、作者の意図を理解してくれなかったモデル達にガッカリした。

の点では「きのこ」の撮影はまことに都合がいい。どんなに近づこうと、時間をかけようと、彼らが逃げ出すという心配がないからだ。


ダイダイガサ
神奈川県平塚市
 

しい種類の「きのこ」が美しい状態で、いい背景の所に生えていたりすると、はやる気持ちを抑えながら、落ち着いてドッカと腰をすえ、おもむろにレンズを磨き始めるのである。こんな時の私はおそらく、ニヤニヤとほくそえんでいるに違いない。

さしく、奇人以外の何者でもない。


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