シリーズ <第91回>


竹 しんじ
自選  《月間MV展》
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MONTHLY MOST VALUABLE PHOTO

1ヵ月ごとの「きのこ探して」の中で、印象に残ったものを自選してみました。

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ミイロアミタケ  冬枯れの乾いた野山では撮影意欲をかき立ててくれるような、ワクワクするモデルに出会う機会はほとんどない。この日も数種の硬質菌にレンズを向けたが手応えなく、ふと足元にこれを見つけた。
 地味なものが多いサルノコシカケの中で、珍しく趣のある色使いを見せるきのこ。紅色や朱色、灰色の濃淡などパターンはまちまちだが、強く隆起して広がる環紋はとても絵になる。
 魚眼レンズで奥行きを誇張すると、まるでどこかの火山を空撮しているような景色になった。濃い紅色の帯と、それに続く梅鼠色の広がり。さらにその外側の白い帯は、裾野にたなびく雲海のようにも見えた。
 こんな1枚の写真に手応えを感じ、また枯野をひたすら歩く。  戻る
2011年3月19日(土)

神野山公園

奈良県山添村

ツガサルノコシカケ
2011年3月26日(土)

柳生街道

奈良県奈良市
 モンゴルやチベット、あるいはアラスカの人たちが、確かこんなミトンの手袋をしていたような・・・。上の幼菌も同じ姿ということは、DNAの遺伝子情報に違いない。構図を決めながら、頭の中でそんなことをブツブツと独りごちていた。
 この日、あちこちのアカマツに黒い大きなツガサルノコシカケを見つけたが、2mほどの崖の上に立つこの樹には、大小取り混ぜてたくさんのカサが付いていた。崖をよじ登って見つけたこの幼菌たちは、ちょうどカサの上が色付き始めたあどけない表情を見せていた。
 奥に見える小さな幼菌も、さらにその奥の白い塊も、いずれきっとミトンの手袋型に成長していくのだろう。硬質菌が時折見せる愉快な表情も、なかなかいいものだ。  戻る
 
ヒメアジロガサモドキ
2011年3月27日(日)

春日山原始林

奈良県奈良市
 春を告げるきのことしてアミガサタケの仲間が知られているが、どうも縁が薄いようでいつもなかなか出会えない。
 今年は彼岸を過ぎても寒い日が多く、春を感じさせてくれるものが見つからないが、そんな中でもこの日は、倒木上にたくさんのヒメアジロガサモドキを見つけた。初めは「どうせニガクリだろう・・・」と味見をしたが苦くない。ツバを覗き込んで本種だと分かり、丁寧に唾を吐く。コレラタケ(ドクアジロガサ)と近縁のため、本種も有毒の可能性が大きいから・・・念のため。
 均整の取れた姿は写真のモデルとしては申し分なく、「有毒かも」という事実はむしろ「妖しさ」をも含むので歓迎だ。
 陽射しにまだまだ春の力を感じないが、季節は着実な歩みを見せてくれている。  戻る

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